Telefone Line

        

        

        

街は慌しい喧騒を見せ、行き交う人々は、足早に通り過ぎていく。

今日は、12月31日。

世間では大晦日と呼ばれ、掃除だの買い物だの、ほとんどの人が多忙を極めている。

そんな中、啓太は一人で街に出ていた。

            

『すごい人出だ・・・。』

あちらこちらで、売り尽くしセールをやっており、威勢のいい声が聞こえてくる。

いつもは学園島の中にいるおかげで、こんなに老若男女が入り乱れた混雑に身を置くのは、久し振りだ。

普段滅多に帰らないせいか、さすがに年末年始は帰っておいでと両親に言われ、

啓太は実家に帰省していた。

今年は、有名な神社でカウントダウンをするのだと言って、妹と母親は朝から張り切っている。

『こ・これよりも・・混んでる・・よなぁ・・』

慣れない混雑に少し疲れながら、今夜の神社の混雑振りを予想して溜息が出てしまう。

混むと分かってるのに、わざわざその神社へ行くのだ。

それでも、笑顔全開で楽しみにしている妹と母を見ると、

やはり「やめよう」とは言えない啓太と父である・・・。

            

            

            

            

頼まれた買い物も何とか無事に済ませ、家に着くと同時に携帯の着信メロディが聞こえてきた。

見ると、それはメールの着信を知らせるものであった。

『和希からだ・・!』

送信者名を見て、啓太は自然と笑みがこぼれてくるのが自分でも分かった。

            

『啓太、今日は大晦日だけど、掃除してる?(笑)

今年は俺にとって本当にいい年だった。ありがとう。また、来年な。』

            

短い文面から、仕事の合間に送ってくれたのだと分かるメール。

それでも、和希の気持ちが流れ込んでくるようで、啓太の心を温かくするのに充分だった。

            

            

本当なら、今日も明日も一緒に居たかった。

でも、生憎和希は仕事上外せないカウントダウン・パーティがあるらしく、

年越しを共にする事は叶わない。

一緒に居られないのなら、寮に居ても仕方ない・・と啓太も実家に帰ってきたのだ。

和希と会っていないのは、ほんの数日なのに、メールが来るだけでこんなにも嬉しい。

『俺って・・やっぱ和希のこと・・・』

凄い好きなんだなあ・・と今更ながら思い知り、赤くなりながらも返信する。

            

『俺も、すごくいい年だったよ。和希、ありがと。

仕事、あんま無理するなよ?』

            

打ちながら文面を考えてると、何だかもどかしくて、直接話したくなってしまう。

            

            

会いたい。

会いたい。

・・・・。

            

            

『・・・だめ、だめ!!和希は仕事なんだから!』

つい、電話を掛けそうになる自分を留めて、言い聞かせるようにそう思う。

携帯を握り締めて、大きく首を振り、熱を冷ます。

『別に・・。ずっと会えないわけじゃないんだし!』

啓太が送ったメールに対する返信はない。

きっと今頃頑張って仕事をこなしているのだろう。

何だか自分ばかりがこんなに気に掛けているのかと思うと悔しい気がする。

啓太は、携帯をポケットにしまうと、それを気にしないよう、出掛ける準備を始めた。

            

            

            

            

やはりというか、何と言うか。

神社の混雑振りは予想を遥かに上回るものだった。

「はぐれたら、待ち合わせは杉の大木の前よ?」

そんな指示まで母は飛ばしていたのだが・・・・・ムリ。絶対ムリ。

どこを見ても人、人、人!!

啓太は車を降りた途端、この混雑を見て目が回りそうになったが、それでも妹と母は、

この賑やかさと活気を求めていたかのように、楽しそうにしていた。

左右にはたくさんの屋台が並び、美味しそうな匂いが漂っている。

「お兄ちゃん、何にする?やっぱ、たこ焼きとソースせんべいは外せないよね?」

「えっ、お前買いに行くつもりなの?」

「お参りが終ったらね。」

この動けない状況でも、妹にとっては、楽しいイベントの一環のようだ。

お参りを済ませ、恒例のおみくじを引く。

「えーーっつ、お兄ちゃんここでも大吉なの〜?」

「俺のせいじゃないんだから、そんな目で見るなよ〜」

妹のくじは末吉らしく、感嘆と不満を混ぜたような口調で言われてしまった。

啓太は、くじを引くといつも大抵「大吉」になるのだ。

開いたくじには、こう書かれていた。

            

“人をおもへば、おもはれる。焦りをなくさば、すべて吉。”

“待ち人・・疾く来たる。”

            

『思えば、思われる・・・か。・・ホントかな・・?』

人の為を思い、その為に行動すれば、やがて、自分の元にも返ってくるという。

そんな事を考えていたら、カウントダウンが始まっていた。

            

18!17!

            

今年は啓太にとって本当にいろいろあった年だった。

BL学園に入学した。

寮生活になった。

退学処分を受けそうになった。

いろんな人と出会った。

そして・・・。

和希と再び出会えた。

            

9!8!7!

            

本当にいい年だった。

たくさんの人に感謝を言いたい。

親に。神様に。・・・そして、和希に。

心からの感謝を!!!

            

3!!

2!!

1!!!!

            

「「「A Happy New Year !!!!!」」」

            

掛け声と共に、花火が盛大に打ちあげられ、夜空を明るく染めている。

「おめでとう!!」

「あけましておめでとう!!!」

「今年も宜しく!」

そこここで挨拶が行き交う。

啓太も家族と挨拶をして、気が付いた。

みんな、花火に照らされた顔が笑顔だ。

家族の笑顔を見て、自然と啓太も笑顔になる。

不思議だ。さっきまで、混雑した人込みにうんざりしていたのに。

きっと、和希も今この瞬間。

同じ夜空を見ているのだと思うと、無性にこの喜びと感謝を伝えたくなってしまった。

ポケットを探り、携帯を取り出す。

和希からのメールは届いていない。

            

アドレスを呼び出し、掛けようとするが、おみくじの内容を思い出し、その手を止める。

            

            

『おもへば、おもはれる』

            

            

和希は今、仕事中だ。

こっちはお祭り気分でも、向こうはそうではないのだ。

和希は自分からだと知ったら、取ってくれるかもしれないが、迷惑を掛けては意味が無い。

『〜〜〜。』

夜空を見上げて、掛けたい気持ち、会いたい気持ちを我慢する。

            

しかし、人間、我慢するとその気持ちが募っていくもので。

傍では、カップルが幸せそうに「今年もよろしくね」などと言っている。

そんなのを見てしまうと、やっぱり。

            

会いたい。

今すぐ会いたい。

・・・・・・・・。

            

せめて、声だけでも。

            

鳴らない携帯をぎゅっと握り締めて、家族のもとに歩き出す啓太の耳に、

周りの嘆き声が聞こえてきた。

            

「あ〜、やっぱ圏外だ!」

「繋がらないよ〜携帯」

            

「・・!そう・・か、集中しすぎてて、どのみち繋がらないんだ・・」

昨今あまりに多くの人が携帯を持つようになり、電波が一極集中すると回線がパンクして

上手く電波が繋がらなくなってしまうという現象が起きていた。

啓太が携帯を見ると、圏外にはなっていないが、あまり安定度は良くないようだった。

『これじゃ、しょうがない・・・』

こちらから掛けることは無理だろう、と諦めかけたその時。

            

            

手の中の携帯が鳴っていた。

メールではなく、電話だ。

しかも、掛けてきたのは・・・

            

「か、和希っつ?!」

『啓太、ごめん。今大丈夫か?』

 

聞きたかった声が、今聞こえている。

周りの喧騒に負けないよう、両手でしっかり携帯を持って、耳をぴったり付けて話す。

「うん、和希こそ・・仕事中・・なんだろ?」

            『ああ。でも、啓太にどうしても会いたくなったから、ちょっとだけ抜けてきた』

「・・っ!!」

 

『せめて、声だけでも。』

            

驚きと感動で、声が出ない。

俺も同じだよ。って言いたいのに。

夜空を見上げて和希の事を思っていたら、和希も同じ事を思っていてくれた!!!

そのことが嬉しくて。

嬉しくて、声にならない。

『啓太。あけまして、おめでとう。今年もよろしくな。』

「あ、あけましておめでとう、和希。こっちこそ、よろしく!」

ようやくそう言うと、和希が優しく笑う気配がした。

『あー、やっぱり声聞くと駄目だな。』

「え?」

『今すぐ抱き締めたい。』

            

潜めた声がはっきりと耳元に届き、啓太はその瞬間体ごと熱くなったのが分かった。

「な、な、な・・!」

何て事を新年早々言うのだ、この男は!

『ははは。おっと、そろそろ戻らなきゃ・・。』

「あ・・、和希!」

『ん?』

「ありがとう、電話。俺も、聞きたかったから、声!

お前の声、聞きたかったから。・・・よかった。」

『・・・啓太。』

やはり電波の調子は悪いらしく、ノイズが聞こえる。

もうすぐ切れてしまう。

その前に、どうしても言っておきたかった。同じ気持ちだと。

 

『・・好きだよ、啓太。又、連絡する。』

そう言って、通話は切れた。

ツー ツー ツー という切れた電話の音を聞きながら、

啓太はもう一度、夜空を見上げてみる。

花火は納まり、代わりに除夜の鐘が遠く鳴り響いていた。

携帯をポケットに仕舞い、先程のおみくじを開いてみる。

            

『おもへば おもはれる』

            

本当に、そうだった。

和希の気持ちが、自分に届いたように、この自分の思いもきっと。

            

            

気が付くと、妹が自分を呼んでいるのが見える。

どうやら、お目当ての品を手に入れたようだ。

傍に和希は居ないけど、家族と過ごせる新年はやっぱり幸せ。

            

お社を振り返り、もう一度感謝とお願いを。

            

            

『今年も、家族と和希が幸せでありますように!』

        

 

 


ここまで読んで下さったかた、お疲れ様でした・・・!

             スミマセン、だらだらと読みづらい文章で(>_<)

                 お正月、もうすぐ終っちゃいますが、新年ネタで。(今しか出せない・・)

             いつもは相手を思う度合い的に、和希>啓太なのですが、今回は

             あえて逆パターンで・・と思い書いてみました。

             おみくじは、今年の私のが、正にこれでした(笑)

             『本当?思えば思われるんダヨねッツ・・?』

             神様、ここはひとつ、よろしく頼みます・・・・・・・・・。(いや、もうマジで。)